「ふるさと住民票®」in中央学院大学 ~学生向けに初授業~

12月13日に、中央学院大学の学生に「ふるさと住民票®」の話をしてきました。

中央学院大学といえば、箱根駅伝常連校、そして今年は11月に行われた明治神宮野球大会で硬式野球部が見事優勝しました!校舎1階にはお祝いの胡蝶蘭がずら~っと並んでいました。

今回は、福嶋浩彦さん(中央学院大学教授、元我孫子市長、元消費者庁長官)が受け持つ授業「我孫子市連携講座」で話すことに。

導入として、福嶋さんから「関係人口とは」「ふるさと住民票®」制度誕生の経緯などをお話しいただきました。

原発事故をきっかけに生まれた「ふるさとへの想いを見える化する」仕組み

  • 住民票を持っている自治体に実際に住んでいる人は「定住住民」、観光に来た人などで自治体に訪れた人を「交流住民」と言う。
  • 「関係住民」はそのどちらでもなく、例えば学生で、実家から離れて我孫子市に住んでいるけれど住民票は実家にあるという人は「我孫子市にとって関係住民」。法律に基づかないけれど、住民票に準じるものを出して、関わりをもってもらおうと始めたのが「ふるさと住民票」。
  • ふるさと住民票制度のきっかけは、東日本大震災。原発事故により住民が避難しなければならない状況が起きた。避難先に住民票がないと行政手続きができない、必要な行政サービスを受けられない。
  • いずれ戻れるようになったらまた戻りたい。自治体も住民に戻って来てもらいたいと思っている。けれども、住民票を避難先に移してしまうと、どうしてもまちへの思いが薄らいでしまう。そこで、もともといた町と避難先で二つの住民票を持てるようにしてくれないかという議論が当時あった。
  • 現行の法律では、住民票は一人一つと決まっており、二重住民票については、いくるかの代替措置はされたが、法律の改正は実現しなかった。
  • そもそも2つ住民票があった方がいいというのは、避難だけに関わる話ではない。ライフスタイルの多様化により、例えば仕事の関係で二地域居住をしている人、親の介護等で一年のうち半分ぐらいを親のいる自治体で過ごす人、など自治体との関わり方は多様化している。
  • 自治体と住民の関係って、一つの自治体に税金を納めて、一つの自治体からサービスをもらうという単線型の関係ってだんだん通用しなくなっているのではないか。だから柔軟にして、複線型の方がいいんじゃないか、そういう議論がでてきた。
  • そこで、法律上の住民票は一つしか出せないけれど、自治体独自の住民票を出せばよいのではと考えた。構想日本代表の加藤さんや学者、また最初は8つの自治体の首長と一緒に「ふるさと住民票」をやろうよって言ったのが、2015年です。そこからいくつかの自治体が取組みをスタートさせて、その事務局を構想日本というシンクタンクが担っている。

その後、構想日本から具体的な取り組みなどを織り交ぜお話を。

ふるさと住民票制度の具体的な取り組み

構想日本は、ふるさと住民票®制度に取り組む自治体をとりまとめる「事務局」として、情報共有や議論する場を作ったり、SNSでの発信やこのような場などで話をすることで、制度そのものの認知度を上げることなどを行っています。

このように、ふるさと住民カードも、自治体ごとにオリジナルデザインで作っています。

ふるさと住民は誰でもなれるし、いつでもなれる。間口が広いんです。主に出身者や、通勤・通学者、またイベントに来た人などです。

自治体の具体的な取り組みを一部ご紹介します。

三豊市(香川県)では、コロナ禍(緊急事態宣言発出時)で帰省を自粛している学生300人を対象に「ふるさと便」を送りました。地元を離れてがんばっている、また心細い思いをしている学生に、物だけでなく、応援の気持ちや心も届けたいという思いで行いました。

三木町(香川県)では、「ふるさと住民会議in東京」を2年連続開催。三木町をもっと知ってもらうには?どんな魅力を発信していったら良いか?などを話し合うとともに、ふるさと住民どうしの交流の場にもなりました。

また、この会議に参加した三木町出身の漫画家さんは、町で発行している新聞にイラストとマンガを描きました。単にふるさととつながるだけではなく、自分のスキルやアイデアを提供し、町とふるさと住民とで双方向のやり取りができたり、お互いが満足できる関係性を作ることができるというのはとても良い例だと思う。こういう例が増えればいいと思います。

さらに三木町は、コロナ禍で対面のイベントができない状況になり、オンラインイベントに挑戦しました。準備は相当大変だったようですが、新しいことにチャレンジできる良い機会でもあると思います。できないことをそのままにせず、ピンチをチャンスととらえ、新しいことにチャレンジすることもこの先生きていく中では大事なことだと思います。

もう一つ、三木町のふるさと住民の学生がある時ふらっと役所を訪れたとのこと。聞いてみると、地元を離れ、ふるさと住民になって、改めて地元のことを考える機会ができたことで、就職先する際の選択肢の一つになった、とのこと。この制度を通して、ふるさとの良さに改めて気づけたりすることも良い効果の一つと考えています。

ふるさと住民票は、いろいろな自治体でたくさんの取り組みが行われています。これからも「まち」と「住民」と「関係人口」で良い意味の“三角関係”を作っていけるような取り組みを期待しています。
構想日本としては、そこに企業や団体が加わったり、ふるさと住民票をやっている自治体同士がコラボするような機会も作っていければいいなと思っています。

最後は、福嶋さんとのやり取り。

人口が減る中で、持続可能な社会を作る一つの知恵

福嶋さん:ふるさと住民票で、とっても良いなと思うのは、人口の取り合いにならないことです。日本全体の人口は、今後50年くらいは必ず減ります。仮に出生率が上がっても、子どもを産む世代の人口が減るからです。

そういう中で、我がまちの人口を減らさない唯一の方法はなんだと思います? 「他のまちの人口をより減らすこと!!」です。だけど、そんな人口の奪い合いをしている自治体に、未来はないだろと私は思います。

人口が減ってもちゃんとみんなが幸せに生きていける、持続可能な仕組みに変えていくことが必要です。そういう仕組みの一つがこのふるさと住民票だと思います。
ふるさと住民は、住んではいなくてもそのまちに何か思いを寄せてくれる人、応援したい、協力したいと思ってくれている人です。そういう人口を増やすことは、どこかの人口を減らすことではありません。
これは、これからのまちづくりを考える上での一つの知恵だと思います。

住んでなくとも、まちづくりに愛着を持って参加する

福嶋さん:パブリックコメントなどで、ふるさと住民の意見を聞く自治体ってありますか。

構想日本(波佐間):募集をしているところはありますが、応募はあまりなさそうです。私にもある自治体から町の計画についての意見募集が送られてきます。でも資料を読んでも生活実感がないから答えづらい。ふるさと住民に意見を聞くには、例えば一度説明をする機会や場をセットするなど、ちゃんと参加できるような仕掛けや仕組みがあった方が良いのかな、と思っています。

福嶋さん:我孫子市は実際にはやっていませんが、ふるさと住民票制度を導入したとする。仮に手賀沼を埋め立てるんだ!という計画が出てきた時に、ふるさと住民に意見を聞くと、いろんな人がたくさん意見を言ってくれると思います。案外、一度外に出てふるさとを見ると、良いところも問題があるところも見えてくることがあると思います。また条例に基づく住民投票は、住民ではないふるさと住民にも参加してもらうことが、条例によって可能になります。

ふるさと住民は、よそ者でも住民価格で施設が使える?

福嶋さん:ふるさと住民票を登録した自治体で、住民票を持っていないけれど活動している人がいると思う。そういう人にとって住民料金で文化会館や体育館などの公共施設を使えるとメリットがあると思います。そういう仕組みはありますか?

構想日本(波佐間):ふるさと住民が、住民価格で公共施設を使えるようにしている自治体がいくつかあります。例えば、行方市(茨城県)では、ふるさと住民は市内にある温泉施設を市民料金で利用することができます。温泉施設を安く使いたいからということで、近隣市町のおばあちゃん、おじいちゃんが活発に使っているそうです(笑)。本来の趣旨とは違うのではないか、と指摘されたこともあります。でも見方を変えると、市外の人と市内の人との新しいコミュニティがそこで生まれていて、今後もしかすると新しい取り組みに発展する可能性があるかもしれません。

返礼品合戦のふるさと納税を本来の姿に戻していく

福嶋さん:ふるさと納税ってみなさん知ってますか?自分が気に入った、応援したい自治体に寄付すると、自分の住んでいる自治体の住民税が軽減されるという仕組み。ふるさと住民票をふるさと納税と一緒に取り組んでいる自治体はどのくらいありますか。

構想日本(波佐間):ほとんどの自治体で取り組んでいます。ニセコ町(北海道)では、ふるさと納税をした人を対象に、ふるさと住民カードを渡しています。単なるファンではなく、ニセコのまちづくりに参加したいという思いが強い人にふるさと住民になってもらう、という仕組みです。

福嶋さん:ニセコ町長は当初、ふるさと納税という制度が大嫌いでした。本来は応援したい自治体への寄付を目的にしているにもかかわらず、返礼品合戦になっている。そんな制度はおかしいとおっしゃっていました。寄付は応援してくれるという意思表示だから、まさに「ふるさと住民」になってくれて、いろいろな形でまちづくりに継続的に関わってもらう。そうした持続的な関係を作るというのが本来のあり方。ふるさと住民票の仕組みとセットにすることで、ふるさと納税を本来のあり方に近づけていこうと、ニセコ町も始めてくれたのだろうと思います。

構想日本(波佐間):私はふるさと住民票担当者ということもあり、ニセコ町に 1万円 ふるさと納税をしました。ニセコをもっと元気にしたい、まちづくりに役立ちたい、という人に関わってほしい。そういう思いが、ニセコ町のふるさと住民票には表れています。

※ニセコ町ふるさと住民票は、特典よりも、心のふるさととつながり、応援したいという想いを大切にし、ニセコをより良い町にしていくために協力するふるさと住民になってもらってほしいという思いがあります。カードの裏面には、ニセコ町まちづくり基本条例が記載されているのが特徴です。

みなさん、ふるさと住民になりますか?

福嶋さん:みなさんの中で、どこかのふるさと住民になっているという人はいませんよね。将来、我孫子市がふるさと住民制度をもし作ったら、ふるさと住民票になってもよいよって思う人は手を挙げてもらえますか??あ、いないんですか(笑)それは、もっと我孫子市が魅力あるまちにならないといけないですね。

構想日本(波佐間):私はなりたいなと思います。今日初めて我孫子市に来て、最初のかかわりができました。こうした貴重な機会をきっかけに、さらに我孫子市との関係が広がればおもしろいかなと思います。

福嶋さん:大学と我孫子市の関わりを本当はもっと作りたいと思います。人との交流の面で、我孫子市とのつながりがまだまだ薄いかなと感じます。個々には、様々な活動で我孫子市と繋がっている学生もいると思いますが、全体としてはまだ少ないです。もし、我孫子市でふるさと住民票が作られたら、皆さんも是非、ふるさと住民になることも考えてもらえれば嬉しいです。